【体験談】不妊治療5年間・約200万円の”お金のリアル” ― 精索静脈瘤の手術から体外受精・妻の産休まで、夫が払い続けた費用の全記録

はじめに ― 「結局、いくらかかったのか」を誰も教えてくれなかった

不妊治療を始めた当初、お金のことをちゃんと考えていなかった。

「とりあえず病院に行ってみよう」「治療費はそのとき考えれば何とかなる」――そんな感じで走り出したのが5年前だ。精索静脈瘤の診断を受け、手術をして、それでも精液検査の数値は思うように改善せず、最終的に体外受精へ。3回の移植を経て、ようやく妻が妊娠した。その間、現金はじわじわと、ときに一気に、口座から消えていった。

ネットで「不妊治療 費用」と検索すると、体外受精1回あたりの費用は出てくる。でも、「精索静脈瘤の手術から始まり、人工授精を経て、体外受精を複数回やって、妻が産休に入るまでの”トータルのキャッシュフロー”」を時系列で書いてくれている記事は、なかなか見つからなかった。

だから、この記事を書く。僕たち夫婦が実際に払った金額、受け取った給付金、「最低いくら手元にあれば安心して治療を続けられるか」を、できるだけ正直な数字で残しておきたい。

先に結論を言うと、5年間のトータルで自己負担は約200万円、妻の産休・育休期間の生活費の変動まで含めると、動いた現金は350万円を超えた。

第1章 ― 精索静脈瘤の手術にかかった費用

診断まで:精液検査で「数値が悪い」と言われた日

不妊治療のスタートは、妻側の検査ではなく、僕の精液検査だった。

最初の婦人科受診で「まず夫婦両方の検査を」と言われ、僕は泌尿器科へ。結果は「精子濃度・運動率ともに基準値を下回る」。さらにエコー検査で「精索静脈瘤あり、左側グレード2」と診断された。

初診から精索静脈瘤の診断までにかかった費用は、保険適用の自己負担で約15,000円。内訳は初診料・精液検査・エコー検査・血液検査だ。「思ったより安いな」と感じたが、これはまだ序章だった。

手術費用:腹腔鏡下精索静脈瘤手術で約15万円

医師から「手術を受けると精子の状態が改善する可能性がある」と説明を受け、迷わず手術を選んだ。腹腔鏡下精索静脈瘤手術(顕微鏡下低位結紮術)は保険適用で、入院含む自己負担は約15万円だった。

手術前の麻酔科受診や術前検査(血液検査・心電図など)も含めると、トータルで約17万円が手術関連費用として動いた。3泊4日の入院で、仕事は1週間弱休んだ。有給休暇の消化も「見えないコスト」として加算される。

術後の経過観察:半年間で約3万円

手術後は定期的に精液検査を行い、数値の改善を確認する。3か月に1回のペースで泌尿器科を受診し、1回あたり約5,000円(保険適用)×6回で約30,000円。

残念ながら、手術後も精子の数値は「劇的に改善」とはならなかった。自然妊娠を目指してもう少し様子を見たが、1年経っても妊娠に至らず、次のステップへ進むことになった。

【第1章まとめ】精索静脈瘤の手術・術後通院で約20万円。「手術すれば自然妊娠できるかも」という期待があったぶん、次のステップへ進む決断には時間がかかった。

第2章 ― 人工授精(AIH)にかかった費用

不妊専門クリニックへ転院:初診検査で約10万円

手術から1年後、不妊専門クリニックへ転院した。転院すると、ほぼすべての検査をやり直すことになる。妻の卵管造影・ホルモン検査・AMH、僕の精液検査・感染症検査などを一通りやって、夫婦合計で約10万円。

特にAMH検査(卵巣予備能の指標)は保険適用外で、妻が約8,000円の実費を支払った。「卵の在庫がどれくらいあるか」を把握しておくことは、治療の方針を決めるうえで非常に重要だった。

人工授精:4回で約12万円

タイミング指導を3周期試したあと、人工授精(AIH)へ進んだ。2022年以降は人工授精も保険適用となり、1回あたりの自己負担は処置代だけなら5,000〜7,000円程度。ただし周期ごとに卵胞チェックの通院費・排卵誘発剤・トリガー注射などが加わり、1周期トータルで約25,000〜30,000円になった。

4回試して結果が出ず、体外受精へのステップアップを決断した。AIH4周期分で約12万円。タイミング指導3周期分の通院費と合わせて、この章だけで約22万円が動いた。

【第2章まとめ】転院検査・タイミング指導・人工授精まで、約22万円・約1年半の期間。「人工授精の成功率は1回あたり5〜10%程度」と知ってはいたが、4回連続の陰性は想像以上に堪えた。

第3章 ― 体外受精にかかった費用のリアル

保険適用でも1周期20万円超が現実

2022年4月から、体外受精・顕微授精は保険適用になった。それ以前は1周期50万〜80万円と言われていたものが、自己負担3割になったことで1周期20万〜30万円に収まるケースが増えた。

とはいえ、「安くなった」という感覚は正直あまりなかった。20万円は20万円だ。

僕たち夫婦の実際の費用(1周期目)を書き出す。

項目金額(自己負担)備考
採卵前の通院(約8回)約20,000円卵胞チェック・採血・処方箋
排卵誘発剤・自己注射約30,000円10日間ほど毎日注射
採卵手術約60,000円全身麻酔・採卵数による
顕微授精+培養代約50,000円男性不妊のため顕微授精を選択
胚凍結保存料約20,000円1年分
胚移植約25,000円ホルモン補充周期
移植後の通院・薬代約15,000円黄体ホルモン剤など
合計約220,000円先進医療なし

これに先進医療(タイムラプス培養)を追加したため、+30,000円の自費が乗り、1周期で約25万円。これが現実の数字だ。

3回の移植で妊娠判定陽性:トータル約60万円

採卵は1周期のみ行い、採卵できた胚を凍結。その後、凍結胚移植を3回繰り返した。

  • 1回目の移植:陰性(約22万円)
  • 2回目の移植:陰性(約22万円)
  • 3回目の移植:陽性(約22万円)

採卵周期と移植周期を合わせると、体外受精にかかった自己負担は約60万円だった。

「最初の1回で授かれるか、それとも何回かかるか」は、誰にも予測できない。だから治療に踏み出す前に、「何回まで続けるか」「そのために現金をいくら用意するか」のラインを夫婦で決めておくことが、精神的に非常に重要だと感じた。

僕たちは事前に「体外受精に使える現金の上限は100万円まで」と話し合って決めていた。そのラインが明確だったおかげで、「まだいける」「もう無理」の判断に感情が入り込みにくくなった。

【第3章まとめ】体外受精3周期(採卵1回・移植3回)で約60万円。「最低50万円、できれば100万円」を治療専用の現金として確保しておくことが現実的なラインだと思う。

第4章 ― 妊娠から出産までにかかった費用

妊婦健診:補助券を使っても自己負担5〜10万円

妊娠が確定すると、妻の健診が始まる。自治体の補助券(14回分)があっても、1回あたり1,500〜3,000円の自己負担が発生する。妻の場合、妊婦健診のトータル自己負担は約7万円だった。

出生前診断(クアトロテスト)も受け、追加で約25,000円。NIPTを選ぶ場合はここが10万〜20万円上乗せになる。

ベビー用品・マタニティ用品:出産前に20万〜25万円

妊娠中に「気づいたら出産前にこんなに買っていた」となりやすいのがベビー・マタニティ用品だ。チャイルドシートは必須で約3万円、ベビーベッドは約4万円(レンタルという選択肢もある)、ベビーカー・抱っこ紐・肌着一式・哺乳瓶セットなどを揃えると最低でも20万円は動く。

出産費用と出産育児一時金

妻が出産した個人産院の分娩・入院費用は68万円(5日間入院)。そこから出産育児一時金50万円(2023年4月以降)が差し引かれ、窓口負担は18万円だった。

帝王切開になった場合は医療保険が適用されることがある。妻は経腟分娩だったが、切迫早産で一時入院があり、その分は医療保険から給付が出た(約5万円)。妊活を始める前に保険を見直しておいたことが、ここで活きた。

【第4章まとめ】妊娠から出産までで健診・用品・分娩費用を合わせて約50〜60万円。「妊娠してから出ていくお金」は意外と大きい。

第5章 ― 産休・育休中の家計の変動

妻が産休に入ると家計はどう変わるか

妻が産休・育休に入ると、世帯収入が一時的に下がる。わかってはいたが、実際に数字を並べてみると、その”重さ”が改めて実感できた。

時期僕の手取り妻の手取り(給付金含む)世帯月収
治療中(共働き)約30万円約22万円約52万円
産休中(出産手当金)約30万円約18万円約48万円
育休前半(67%期)約30万円約18万円約48万円
育休後半(50%期)約30万円約13万円約43万円
育休明け無給期間約30万円0円約30万円

給付金が出ている間は何とか黒字を維持できたが、復帰前後の無給期間(約2か月)は毎月の生活費を貯金から補填した。さらに、ボーナスがゼロになる影響が年間ベースでは大きく、共働き時代と比べると年間で80万〜100万円の収入減になる。

給付金が「後払い」であることの現実

出産手当金・育児休業給付金は、どちらも支給されるまでに2〜4か月のタイムラグがある。「もらえることはわかっているが、今は手元にない」という期間が続く。だから給付金を当てにして生活設計するのではなく、「給付金が振り込まれる前の期間を現金で乗り切れるか」を先に確認しておく必要がある。

【第5章まとめ】産休・育休中は給付金で月収の6〜8割をカバーできるが、ボーナスゼロの影響と給付金の後払いタイムラグに注意。最低でも生活費6か月分は手元の現金で持っておくべきだ。

第6章 ― 結局いくら用意すればよかったか

5年間の”出ていった現金”と”入ってきた給付金”

フェーズ出ていったお金給付金差し引き
精索静脈瘤の手術・術後通院約20万円0円▲20万円
転院・検査・タイミング指導・人工授精約22万円0円▲22万円
体外受精(採卵1回・移植3回)約60万円0円▲60万円
妊娠〜出産前(健診・用品・出産費用)約60万円50万円(一時金)▲10万円
産休・育休中の生活費補填約200万円約150万円(各種給付)▲50万円
合計約362万円約200万円▲約162万円

純粋な治療費・出産関連の自己負担だけで約112万円、生活費の補填分も含めると約162万円が貯金から消えた。5年間で200万円というのは、「治療費そのもの」ではなく「治療費+生活費の変動分すべて」を含めた実感値だ。

「最低いくら現金を持っておくべきか」の結論

これから不妊治療を始める夫婦に聞かれたら、僕はこう答える。

  • 治療費専用の現金:100万円(体外受精を複数回想定した上限として)
  • 妊娠〜出産関連:70万円(健診・用品・分娩自己負担)
  • 産休・育休中の生活防衛資金:生活費6か月分(目安150〜200万円)
  • 合計の現金目安:約300〜350万円

「そんなに?」と思うかもしれない。でも、これは最大値の備えだ。体外受精に至らないケース、育休を短くするケースなら、必要な現金は大きく減る。それでも、最低限「治療費と出産費で100万円以上は動く」という前提で計画を立てておくと、想定外の出費に焦らずに済む。

第7章 ― やっておいて良かった2つの備え

① 妊活を始める前に医療保険を見直す

妊娠後に医療保険に加入しようとすると、帝王切開・異常分娩が保障対象外になるか、そもそも加入できないことがある。妻の場合は経腟分娩だったが、切迫早産での入院があり、妊活前に見直しておいた医療保険から給付が出た。

妊活を始める前に保険を見直す。これは「1日でも早くやっておけ」と声を大にして言いたい。

② FPに家計シミュレーションを依頼する

体外受精にステップアップするタイミングで、無料のFP相談を利用した。「治療費に100万円使った場合の5年後・10年後の家計」「育休で収入が下がった期間の耐久力」「子どもの教育費も含めた月の貯金ペース」を数字で見える化してもらった。

「100万円使っても家計は破綻しない」という具体的な数字をもらえたことで、夫婦の意思決定がずっとスムーズになった。感情ではなく、数字で判断できるようになったのは大きかった。

まとめ ― 「いくらかかるか」を知ることが、前に進む力になる

5年間・約200万円。正直に言うと、途中で「もう無理かもしれない」と思った瞬間もあった。でも、お金の不安の正体は「いくらかかるかわからない」というあいまいさにある。一度きちんと見える化すれば、漠然とした恐怖は「次にやるべきこと」に変わる。

治療費の上限を決める。保険を見直す。FPに相談して数字を作る。——そういう一つひとつの行動が、「お金の心配をしながら治療を続ける」状態から「やれることをやっている」という安心感に変えてくれた。

これから不妊治療を始める方、体外受精に踏み出すか迷っている方、育休で一馬力になることが不安な方の、何かしらの参考になれば嬉しい。

※本記事は個人の体験に基づくものです。費用や給付金の金額は2025〜2026年時点の制度を参考にしていますが、医療機関・自治体・勤務先によって異なります。最新の情報は必ず公的機関や医療機関に直接ご確認ください。

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